写真を語る


13. 写真家とカメラマン [25 Sep. 2005]

 愚考の迷宮でもどこかで触れましたが、情報サイトはとても便利ですね。私みたいに田舎に住んでいても、いろいろ新製品なんかの情報が手に入る。それもユーザーの立場から発信された情報がたくさんあって、とっても助かります。ただね、写真を撮る立場からすると、???な事も結構多い。

 カメラマンと写真家って日本語では区別がつかないんですが、英語では全く違う人を指す。カメラマンっていうのは撮影技師であって、創作活動をする人はフォトグラファー。情報サイトで情報提供している方々はとっても良くカメラのスペックを知ってるんだけれど、作品を拝見すると???って事が多い。私が定義する「素敵な写真」じゃないんです。私はカメラマンではなくフォトグラファーを目指したいと思ってます。


12. 写真を撮るのか、見るのか(その2) [26 Jun. 2004]

 良い時計が欲しくてロレックスを買う人が居ます。Kanao はそれを否定する気は毛頭ありません。しかし、ロレックスしか知らなくて買ったロレックスと、インターやルクルトと迷った挙句「やっぱりロレックス」と選択したロレックスは違う物だと思います。前回の話で言えば、侘び寂びが分かった上での「玉子焼きが一番おいしい」みたいなものです。

 絵を描いたことも無いのに、あるいは色々な絵を飽きるほど見たことも無いのに、「ピカソの抽象画が良い」という人は信じられません。「きっと、高い値がつくからでしょう」と思ってしまいます。自分で悩みながら写真を撮り、たくさんの優れた作品を見るなかから、「見る目」が養われ、自分なりの「素敵な写真」への道が開けるのだと思っています。


11. 色は匂えど散りぬるを [3 Jun. 2003]

 技術的に見れば、色は色相・明度・彩度のパラメータを持ち、彩度を極端に下げたのが白黒写真。もっと哲学的に理解しようとすれば、「空(くう)」に対する「色(しき)」というのもあります。カラー写真で再現された「色」が普遍的な情報でないことは明らかで、色事はすべからく空しい。

 じゃ、いっそ、色を取り去って「モノクロームで勝負」ってのも一法ですね。光のセンスを磨くには、「色」という幻法から解き放たれるのが、近道です。ご自身の写真にも、ハリウッド映画とフランス映画の違いぐらいの変化が出るでしょう。


10. 自分が写っている写真 [25 May 2003]

 Kanao が一番好きな写真家はエドワール・ブーバです。綺麗で、かつ、気品のある写真を撮る人です。しかし、それだけではありません。彼の写真には、彼が写っていると感じるからなのです。公園の写真。子供が遊んでいる写真。海辺にたたずむ女性の写真。「あ、いいな」と思って写真家を確認すると、彼なのです。

 こんな素晴らしい写真家と同じようになれるとは思いませんが、「自分が写っている写真」を目指したいですね。「整っているだけ」の絵葉書のような写真ではなくて。「この写真、ひょっとして … Kanao じゃない?」と言ってもらえるような写真を目指したい。それって、私にととってのフロンティア(新領域)なんじゃないかと思うんです。


9. 写真を撮るのか見るのか [29 Apr.2003]

 写真というのは怖いもので、一通りの技術が身について、「ピントが合っていて、露出が適正で、ブレていない写真」が撮れるようになると、自分が「ゲージュツ家」になったような気分になる人が出てくる。あぶない、あぶない。フルートで音が出せるようになったって、漢字かな混じり文が書けるようになったって、「音楽家」や「文筆家」になったとは誰も思わないのに。

 骨董品屋が弟子を育てるとき、一々言葉では教えない。本当に良い物をひたすら見せるんだそうです。自然と目が肥えてくる。まがい物を見分けられるようになる。写真も然り。どれだけ良質の写真を見ていますか?「玉子焼きにケチャップが一番おいしくて、ワサビや辛子は辛くて嫌い」という人が作った料理を食べたいとは思いませんね、私は。


8. 写真は本当に引き算か [12 Apr.2003]

 「写真入門」のような本を紐解くと、構図に関するアドバイスとして「写真は引き算」というフレーズを目にします。「初心者はあれもこれもと欲張って画面の中に詰め込みすぎるので、もっと表現したい対象に絞り込んだほうが良いですよ」というような意味です。本当でしょうか?

 スキーでは初心者を指導するときは、「谷足荷重」を強調します。その方がエッジの使い方を覚えやすいからです。でも、当然のことながら、ある程度以上のレベルに達して、ハイスピードで滑る場合、両足に荷重したほうがスキーは安定します。つまり、谷足荷重が良いか両足荷重が良いかは、TPOによって変わってくるわけです。いつでも「写真は引き算」を厳守していると、「ブツ撮り」カメラマンになってしまいますよ。スーパーのチラシを作るんならそれで良いわけですが。


7. ドンシャリ [22 Feb.2003]

 ドンブリ飯という意味ではありません。最近買ったコンピューター雑誌でスピーカーの特集があり、音の特性の表現として使われていました。低音が「ドン!!」、高温が「シャリシャリ」と鳴るスピーカーで、そうでないと「良い音」と感じない若者が増えていると、著者は嘆いていました。

 さて、写真はどうでしょう?グラビア印刷に慣れてしまった一般の方は、目が痛くなるようなコントラストの高い映像でないと「良い写真」と感じないようです。以前アンセル・アダムスの名作「ニューメキシコの月」のプレミアムプリントを見たことがありますが、もし、これを Kanao の写真として展示したら、「ネムイ(コントラストが低すぎる)」という感想がでるだろうな・・・と思ったことを思い出しました。


6. 記録か芸術か [6 Dec.2002]

 その昔、写真展を開いたところ、熱いトンがった人から「君のは記録か芸術か」みたいな論議をフッかけられたことがあります。やれやれ「青いなぁ・・・」。でも「自分が何故写真を撮るのか」を考えることも、ある意味大切だと思います。かなりの労力やお金を使って「写真活動」をしている訳ですから。

 写真の記録性については疑問の余地は無いですね。芸術は「美の創作・表現」と定義されるそうです。報道写真は「記録」の側面が強く、ファインアートは文字通り「芸術」なのでしょう。写真館の肖像写真は、「工芸:芸術的な工作物を作ること」に分類されるような気がします。アイドルのポートレートなんかも「工芸」のような。さて、私の写真・・・何なんでしょう?なんとか「習い事」を脱して「創作」の域に持っていきたいのですが・・・。


5. 質か量か [16 Nov.2002]

 とにかく数を撮る。無理だと思っても撮る。この姿勢の中から意外性のある写真が出てきて、写真の幅が広がります。教科書通りの撮り方が、全ての写真にとってベストなわけではない。ましてや全自動カメラの判断が、全ての写真にとって正しいはずがない。時にはファインダーを覗かずに撮ってみる。「こんな構図もアリか!」。発見がある。

 写真の持つ意味を考える上でも、「まず量ありき」と考える。森山大道氏の言葉を思い出すのです。「量の無い質はありえない。質の無い量はもっとありえない」。至言だと思います。


4. 自動露出とマニュアル露出 [2 Nov.2002]

 今時、完全なマニュアル露出のカメラを使っている人は少ないでしょうね。しかし、この面倒くさいマニュアル露出は、素敵な写真への近道の一つのようにも思われます。露出計すら付いていないライカM2をもってスナップする時、何時もより光に敏感になっている自分に気付くのです。そして、自動露出のニコンF3より露出が安定していたりもします。

「日陰になったぞ」、「太陽に雲が近づいていってるから、もうすぐ光が柔らかくなる」、「この角を曲がると斜光線になる」・・・。最新鋭のニコンD100でも、幸か不幸か、古いレンズをつけると「露出計すらついていないカメラ」になってしまい、光を読みながらの散歩を楽しめます。


3. ズームよりフットワーク [11 Oct.2002]

「写真撮影とは運動である」と認識する。建物全体を撮るのに、「広角側にズームする」のではなく「何歩か下がってみる」。面白い被写体を見つけて「望遠側にズームする」のではなく「近寄ってみる」。周りをぐるっと回ってみて、光のあたり具合を調べてみる。中腰では、しゃがんだら・・・?

選択肢はたくさんあるのに、最初の一つで決めてしまうのは、レストランに入った時に必ず一番上の定食メニューを選ぶような物です。ベストの選択である可能性が高いとは言えません。


2. 広角と望遠 [03 Oct.2002]

「『広角』は広いところを写すレンズで、『望遠』は遠いところの物を大きく写すレンズ」という理解は正しいのですが、こう認識しているとなかなか素敵な写真は撮れません。むしろ「『広角』は遠近感を強調できるレンズで、『望遠』は背景を単純化できるレンズ」と考えた方が近道です。

『望遠』は情緒的になりがちで、『広角』はルポルタージュ的になりがちとも言えます。『望遠』は想像力に訴え、『広角』は説明的でもあります。


1. 縦か横か [22 Sep.2002]

プリンターの用紙設定では、『縦位置』を『ポートレート(肖像写真)』、『横位置』を『ランドスケープ(風景写真)』と呼ぶこともありますが、『横位置』の素敵なポートレートもありますし、『縦位置』の素晴らしい風景写真もあります。それよりも、「『縦位置』の写真は『主観的』で『横位置』の写真は『客観的』」なんて意識をすると、素敵な写真に近づけるかもしれません。

蛇足ですが、かつて、ライフ(有名な写真雑誌です)の駆け出しカメラマンは、まず、『縦位置』で撮ることを叩き込まれたそうです。これは、単に、『横位置=見開き2ページ』はまず採用してもらえないという事情だったそうです。