懐かしのマレーシア

2006年4月4日:(その2)長くて短い午後

[Japanese only]


4月4日(火曜日)午後

 Kanaoはスリーヨーク横の公園の旧友と会うために、おつうはマーケットで、それぞれかなり汗をかいていたので、ホテルの部屋でざっとシャワーを浴び、おニューのTシャツを着る。L先生との待ち合わせ時間だ。ホテルのロビーで待つことしばし。おかしいな、来ない。かの有名な「マレーシアン・タイム」だと言ってしまえばそれまでだが、今日まで会った方々はけっこう時間厳守。Kanaoはソファでウトウトしていた。結局待ち合わせの時間を40分近く過ぎて、L先生が走ってやってくる。寝ぼけたKanaoは、おつうが「L先生が走ってくる」というのを聞いて、「そりゃ、トライアスロンの選手なんだから、走っても不思議はなかろう」などと訳の分からないことを考えていた。

 L先生は相変わらず日本語が上手で、話も面白い。で、ホテルのロビーで話を続けるうちに、薄々感づいたことがある。「ランチ・タイムに会おう」というのは文字通りの意味であり、「お昼を一緒に食べよう」という意味ではないということ。30分強、いろいろと喋った後、L先生は「これから子供を迎えに行って、一緒にお昼を食べるんだ」と言って、去っていった。今晩のディナーが空くようだったら、セカンド・オプションとしてL先生を誘うという約束を残して。

 で、私たちの昼食はどうしようか?おつうの希望でタイ料理を食べることにする。うーん。朝が軽かったから良いとしても、かなりヘビーだ。好きなタイ料理屋、シリ・ワンの支店がプラウティクスに出来たと聞いていたので、そこまで歩くことにする。たいした距離ではない。昼を大分回っていたこともあって、レストランは空っぽ。

 さて、このレストランに行くのなら、是非、食べたかった物がある。前菜のミャンカム。小皿に出されたナッツや薬味などを、タイチャプールという葉で包んで食べるものだ。「ハニー・シー・ココナッツ・ジュース!妻はスターフルーツ・ジュース。それとミャンカム」「すみません、ミャンカムはありません」。えーーーーーー。私がこのレストランに来た意味の30%ぐらいは吹っ飛んでしまった。


 危うくやる気を失いかけたKanaoだが、気を取り直して注文を続ける。後は写真を見ていただきましょう。トムヤンクン、カンコン・ファイヤーボール(サンバル味←Kanaoはこの臭いが苦手だが、この店のなら食べられる)、チキングリーンカレー(いつもは鹿肉にするのだが)、パインナップル・フライド・ライス、レモングラス・プラウン。テーブルに並べられた料理を見て唖然。小皿で、と頼んだのだが、どう控えめに考えても一皿余計だった。で、もっと怖いことに、全部、腹に納まってしまった。夕べ、カリアマンスで苦しいほど食べたばかりなのに、また、やっちまった。美味しすぎる料理がいけない、と責任転嫁する。

 シリ・ワンでタクシーを呼んでもらい、またしてもガーニー・プラザへ。本当に買出しに来てるんじゃないかと言われそうだが、まぁ、その通りである。娘たちのTシャツを何が何でも調達しなければ、着る物が続かない。ようやく娘たちに似合いそうなTシャツを見つけ購入。

 ところで、ガーニー・プラザには時計屋が何軒もあるが、スォッチの店で持参した愛用のスォッチの電池を入れ替えてもらう。ちなみにこのスォッチは10年以上前に購入したもので、ベルトは以前、オランダで入手した物に付け替えてある。何故か、日本では良いデザインのスォッチ用ベルトを調達できないのだ。

 ついでに「もう二つ、電池が欲しいんだけれど・・・」…簡単に売ってもらえた。日本では断られるんですよねー。交換手数料を取るために。スォッチって、誰でもコイン一個で簡単に電池を交換できるのが良いところなのに、日本でのやり方って、「なんだかなー」って感じ。

 もう一軒の時計屋、モーリスラクロアとかボーム&メルシェあたりの中級ぐらいの時計に強い店の覗いて、びっくり。以前Mr.Tの店に居た若い店員がこちらに移っている。ペナンでは、こういう事を良く経験する。彼は「Mr.Tにはいろいろ勉強させてもらった」と言っていた。「あそこで、良い時計や良いお客を知ることができたので、この店に移っても、良い時計を見極めることができるようになった」とも。Mr.Tの店は高級品、この若い彼の店は中級、その他の店は比較的廉価品という住み分けができている。

 さて、夕食までは少し時間がある。どうしようか・・・と私たちに残された時間の使い方を考える。せっかくペナンに来た記念に何か・・・というと、やはりインド人街が面白そう。

 せっかくの記念にと、おつうにアクセサリーを。前にも何処かに書いたが、ここ、インド人街で手に入る金製品は、22K。日本で普通に手に入る18Kの物よりも、黄金色に輝いている。Kanaoはこの色が、結構好きだ。それに、日本に限らず、他ではなかなか目にすること無い、きらびやかなデザインも面白い。薄く出来ているので、見掛けよりも軽く・・ということは、値段も結構安いし。そういえば、2年前に帰国の際は、恵と佳に一つずつ、魚の形のペンダントヘッドを入手した。チャンスがあったら、一度覗いてみると、楽しめますよ。

 最初、相手をしてくれていたおじさんは英語が×で退場。途中から交渉相手が、英語を話すちょっと逞しい体型の若い女の子に変わる。いくつか見せてもらううちに、「あ、これは連れて帰りたい」と感じるデザインの物に行き当たり、価格交渉に。定型どおり、お互いに相手の言う数字と自分の言う数字の間ぐらいを提案し、落とし込む。最後は、客側が言った数字を渋々認めた形にして、気分良くさせてくれるところも上手い。

 無事、交渉が成立すると、商品をケースに入れて(これがまた、安っぽいプラスチックス製)菊の花を沿え、ガネーシャ(像の頭をしたヒンズー教の神様:金運をもたらす、知恵を授ける、全ての障害を取り除く、などと信じられている)に祈ってから、手渡してくれた。このあたりのプロセスもインド人街ならではで、何となく感じが良い。

 Kanao はコンパクト・デジタルカメラで街をチョコチョコ、スナップ。バイクにまたがったまま、屋台でおやつを物色している人がいたり、何に使うのかも分からない雑貨が店先にぶら下がっていたり・・・やはり、帰る前に一眼レフを持ってきて、ちゃんと撮りたいところだが、時間は取れるだろうか?明日以降にちょっと期待。

 ところで、今晩の夕食は、やはりD夫人のご主人は忙しそう。で、セカンド・オプションで、L先生と夕食の約束。ちょっと失礼な気もしたが、全然、そんな受け止め方はされていないよう。残念ながら、娘たちは同席できない。L先生と会食というと、まず、エアコンの効いているようなレストランは期待しない方が良い。そして、それが、良い。指定されたレストランは、昔行きつけだったバクテー屋、松華江。二日目の朝にバクテーを食べた店の二間隣だ。ホテルからは、充分歩いて行ける距離。朝はバクテーだが、夜はいろいろな屋台(ペナン名物の一つ:ホッカー)が出て、地元の人たちが舌鼓を打っている。待ち合わせのころ、陽は沈みかけ、ガーニードライブも良い雰囲気になってくる。

 待ち合わせ場所に現れたL先生と息子のT君。やはりT君も大きくなっていた。ご馳走になったのは、いわゆるジャンク・フード。マレーシアで一番の食はペナンにあると言われるが、そのペナンを代表する食が、これらの屋台で食べるサテー(マレー風焼き鳥)であり、五香(五香粉の入った春巻など)である。もう一つの代表がラクサ(魚料理)であるが、幸運にもここには無い。あの臭いだけは耐えられない。残念ながら、私はラクサを食べられるほどの「ペナンの達人」では無いのだ。

 テーブルに並べられたジャンク・フードを突付きながら、L先生の舌は止まらない。面白い話がこれでもかと出てくる。おかげで、Kanaoはビールを頼むのも、「どうしてもマンゴが食べたい」と言うのも忘れてしまった。ちなみに、今回の旅行でKanaoがアルコールを口にしたのは往復の機内だけ。また、このマンゴ大好き人間が、結局、マレーシアではマンゴを口にするチャンスが無かった。特に後者は、痛恨の極みである。

 水泳コーチであり、釣りが趣味であるL先生との話は、自然に、水泳のこと、海のこと、釣りのことになる。「僕は水からお金を得て、そのお金を水に使ってるんだ」。妙に説得力がある。ちなみに息子のT君は佳と同い年の8歳。「将来の夢は?」との問いに「海洋生物学者」。筋金入りである。ちなみに佳の夢は「建築デザイナー」。8歳って、将来の夢を聞かれたときに、こんなに具体的な職業名が出てくるものだったっけ?

 L先生の話は続く。最初にL先生の携帯に電話したときに出なかったという話題から・・・子供の水泳のコーチの仕事は、神経をすり減らすという話。2,3分目を離した隙に問題が起きたら、もうおしまい。子供は帰ってこない。レッスンが始まったら、絶対にプールサイドから離れないようにして、何十年もこの仕事を続けてきた。その結果、トラブルは一度も無い。

 話はさらに続く。とあるホテルのプールに居た時のこと。自分とは関係ない女の子がプールから突然姿を消した。作業員がプールの清掃用の吸い込み口のバルブを閉め忘れ、その女の子が手を引き込まれて溺れたのだ。L先生が異常に気づき、その子の腕を吸い込み口から引き抜いて助けたのだが、プールのマネージャーはL先生をなじった。「僕は彼(その場の責任者)を助けたんだよ。でも怒られた」

 「この国の人は、日本人と違って責任逃ればかりしているんだ。これが日本だったらぜんぜん違う」とおっしゃるL先生。やはり、この美しすぎる日本人像に関する誤解は、解いておかねばなるまい。「いや、L先生、日本人にも無責任な人はたくさんいますよ。『たらい回し』という言葉があるぐらいですから」と、「たらい回し」の意味を説明する。「タライマワシ・・・」。彼の流暢な日本語に、一つ語彙が増えたことは、想像に難くない。

 さて、夜も更け行き、娘たちが友達の家から帰ってくる。娘達を連れて、L先生、T君とホテル横のコーヒー・ビーンへ。夜の空気が心地好く、オープンエアーの席にする。「今度来るときは、何をしたいか、もっと早く相談ね。ボートを出して釣り?クルージング?ダイビング?今度来たときは恵も佳もこちらでダイビングのライセンスを取ろう」と話を続けるL先生の携帯が鳴る。

 中国語でしばらく話した後、携帯を切って曰く。「女医さん。昔水泳を教えた女の子。20年前ね。これからディスコで飲もうって」。世界中、何処に行っても友達が居るというL先生。流石である。「ペナンに居る間に何か予定が変わったら、セカンド・オプションは僕ね、いい?」と言い残して、バイクにT君を乗せて去っていった。T君を寝かしつけてから女医さんに会うために。

 さて、今日も、長い長い、そして、あっという間の一日が終わった。


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